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長谷川白紙-エアにに アルバム全曲感想

  かの長谷川白紙が新譜”エアにに”をリリースした。

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長谷川白紙については

nirnirnir.hatenablog.com

  ということなので長谷川白紙の新譜”エアにに”の前曲レビューを行いたい。

全体の感想 

 前回の作品”草木萌動”の作品から言えるのだが長谷川白紙の作品はカオスかつ歌ものになっているという所が大きなポイントである。複雑かつ様々な音色を使うことと同時にポップに歌を聞かせるということにフォーカスしているからだ。

 

 その中で今回の作品はよりその純度を濃く、研ぎ澄ましている。前作のものがとても素晴らしい作品であるので、少し系統を変えることで目先を変えるといったことはせず真っ直ぐに持ち味を磨いている。これは単純なことではあるものの一番難しいとも言える。単に同じことをするだけでもなくそこに良さをプラスしなければならないからだ。

 

 とても声がいい。その部分に注目して是非このアルバムを聞いてほしい。

アルバム全曲感想

01. あなただけ

 パーティーが始まったようなスタートである。ただ陽気ではない。なにか不穏さが漂う。ほんのちょっとタイミングがずれる金管の楽器の音色がいい。

 

 不思議さと同時に今から長谷川白紙が全能の世界が始まるという音色である。
02. o(__*)

 ちょっと読み方は分からないが絵文字であることは間違いない。暴力的なドラムパターンに支えられている。

 

 ただどこかコミカルなのだ。深刻ではない。そして螺旋の中に飲まれるように収縮してく。勢いは止まらない。だが収縮していくのだ。
03. 怖いところ

 以前の”草木”のような感覚も受ける、1分47秒である。

 

 いやしかしポップスなのだ。不協和音的なものを使っているのにポップ。カオスな外身には想像できない。
04. 砂漠で

 こちらも暴力的なリズムパターンにほんの少しズレたシンセ。ただこの曲で聞くところは他にもある。声である。

 

 前回から歌声が気だるく気追っていないのにかっこいいと思っていたが、よりスマートによくなっている。音域が広いとかそういう歌の巧さではない。けども巧さより知性のある声にとても惹かれる。
05. 風邪山羊

 ルイスコールのような歯切れのいいリズムに乗せてボーカルの音の置き方というのか、アクセントのつけ方が極めて官能さをそそる。

 

 風邪山羊という曲名も曲の概要を語りきらず、でも寄り添うものになっていて好きだ。
06. 蕊のパーティ

 しべ、と読む。雄しべと雌しべという意味があるこの言葉を使うということに思いをはせると何かいやらしさであったり、生命という大きな普遍を語っているのかと思える。

 

 じっくりと聞かせている。歌を引き立たせるためのバックトラックになっている。
07. 悪魔

 エスニックな交互する音階の波を背にして伸びやかな声のコントラストがメルヘンさを生んでいる。

 

 今日聞くのと明日聞くのでは感じ方が変わるようなアンニュイさを感じる。
08. いつくしい日々

 長谷川白紙は曲芸師という一面がフィーチャーされていると思う。その中でこの曲を作り、終盤のいいところに持ってきた意味を我々は考える義務がある。

 

 もちろん一本調子ではないのだが、彼の曲の中でもダントツに無垢。素を見られる。
09. 山が見える

 長谷川白紙の代名詞ともいえる揺れるシンセとリズムが存分にある。それにプラスして声が本当にいい。

 

 ”繰り返して繰り返して”という節があるのだがその部分がとても繰り返している。そりゃ同じ言葉を連呼することは繰り返すということなのだが、くどさを感じない。

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 エッシャーの有名な絵を見てほしい。ドンドンと魚が鳥へと、鳥がサカナへと変化する。繰り返しているのにも拘らず、だ。繰り返しと変化という正反対なものが同時に存在しうる面白さに感銘を受けたものだ。そしてこの曲を聞いたときにまさにこの絵を見た時の感覚に近似したのだ。繰り返しが繰り返しにならないという矛盾さ。その不可思議さにより曲を注意深く聞く。そして虜になっているわけだ。

10. ニュートラ

 ピアノの弾き語りと声のみで終わる。曲線だけで作られたような引っ掛かりのなさを思う。

 

 この曲が最後にあると口がさっぱりするというか、スッと胸にこのアルバムがはいいて終わる。

 

 

 

 

 

 とてもバラエティの富むアルバムであった。

 

 音楽を普段聞かない人にお勧めしたい。彼のアクロバティックな音で耳を洗ってほしい。必ず何かしらの門が開く。