pp響く音

音楽とか自分の経験したこと

少しだけ、浮き落ちる Wool & The Pants

 毎日をラブコメの主人公のように生きているだろうか。若しくは年中ゴッホのように耳をそぎ落としたくなるほど絶望しているか。

 

 そんな極端に振り切っている人は少ない。時々は振り切れることはあるだろう。でも基本はぬるい温度で過ごしているのだと思う。Wool & The Pantsは両極端ではない。シーソーがちょうど浮いて足が離れているようなバランスのアーティストである。

 

soundcloud.com

大げさなものは嫌いなんですよ。過剰にドラマチックに演出するのも嫌いだし、過剰に壊滅的に絶望的な歌とかも苦手で。自分の生活に近い淡々とした感じというか。

http://www.ele-king.net/interviews/007665/

 Wool & The Pantsは東京を拠点にする3人組である。坂本慎太郎が2019年のベストディスクの一枚に取り上げている。

 

 最小で動いている。音数が少ないという部分はもちろんであるが、音域すらもギリギリをいっている。周波数を削るフィルターが掛かっているよう。スカスカであるのだがこれが陰鬱さを引き立てててよい。機構は少ない部品であるほどに洗練されるのだ。

 やかましい音楽を想像してほしい。其れの150度ほど背を向けた所に存在する。

 

 かっこいいのだが決めすぎていない。耳に多くの音が流れないことはこんなにも清々しいのだ。耳疲れしない。単調さは繰り返すことでリズムとなり、ノリとなる。ビートの基本原則を再確認できる。

 

 全体的にはヒップホップっぽさがあるが歌がメロディーとして入っているのもよい。その歌がねっとりしているのだ。その粘着質な声がさっぱりしたバックサウンドと対比になって面白くなっている。

 何より背景に日常を感じる。決して華やかではない。ただただそこにある。恋に燃えているわけでも、強烈な絶望も、玲瓏たる夜でもない。天気で言うなら曇り、体調で言うならば鼻風邪。誰もがある少しだるい、バットではないけど、ローな気分。でも確実に皆に存在する。

 


Wool & The Pants / Bottom of Tokyo

 

 激烈ではない、日々を生きる。少し浮かれて、少し落ちる。低空を過ごす我々に合っている適度な温度がWool & The Pantsの作る音楽である。