コーネリアスのアルバムレビューもついに来るところまできた。69/96やThe First Quetion Awardは今のところ書く気がないのでこれで最後になる予定だ。
コーネリアスといったらこのアルバムであるといういわば共通認識があるために避けてきた。日本の名盤ベストというものにもよく出てくるし海外での認知が高まったアルバムでもあるためにその感想を書くことに逃げてきた。
ただこれを書かないと終わり切れないので書くこととする。
全体感想
このアルバムにおいて主に3点のポイントがあると感じている。
- クロスオーバー
既存のジャンルのエッセンスを混ぜながらそれらしい曲を作るのではなく、また新たなものへと挑戦している。また、そのままサンプリングしていたりもしている。
特にハードロックのようなギターなどが目立つ。その要素もありつつ泥臭さを感じないコーネリアスチックとも呼べるものに分解してまた組み立てている。
- 斜めさ
正直先ほど述べた様々なジャンルのクロスオーバーは目新しいものではない。
このアルバムの特徴すべきことはもちろん完成度は高いのだが、それ以上に斜めさというかひねくれ方であるのだ。
これまでのジャンルを単純に足し算するのではなく、例えるなら異物を足していく感覚。真っ直ぐさからはかけ離れている。ここに陳腐ではあるがオシャレさや知的さのエッセンスを奥に感じ取れる。
- 破壊(もしくは消化)
これまでの様々なジャンルを再構築しているとはいったものの、その構築方法がめちゃめちゃである。
そしてべらぼうなものを想像するにはべらぼうな破壊がつきものである。このアルバムにはそれを感じる。
では一曲ごとに感想を述べたい。
アルバム全曲感想
1. MIC CHECK
聞こえますか、聞こえますか。と言ってマイクチェックをする。普通マイクチェックをするのところは見せなくていい。何故ならこれは録音なのであるから。
そのあえてな事をするへそ曲がりというのか斜に構えているというのか。言い方によってはオシャレともいえることを一曲目に入れる面白さがある。
バイノーラル録音であり、耳もとで立体的に動くように音像が移動していく。トレモロがかかったかのような音と共に次の曲へとシームレスに繋がる。あくまでもマイクチェックなのだ。
2. THE MICRO DISNEYCAL WORLD TOUR
”Disneycal”との語がある。もちろんあの夢の国であろう、優雅な多幸感に満ちていそうだ。
何かそれにも唾を吐くような気だるさ、揶揄っているよう。こういう曲を作ることも可能なんだぞ、と言わんばかりだ。
3. NEW MUSIC MACHINE
ギターが中心である。そしてたくさんの音が重なっているのにも何かスカスカである。低音部分がごっそりと抜けている。歌声も細やかでその対比がアンバランスを生んでいる。
ただただ一つのジャンルをするのではない、そんなものは模倣できるんだと思っているかは分からないが既存の曲を晒している感覚に陥った。
4. CLASH
Clashと聞いたら破壊衝動が沸き上がりそうなものではあるが、そんな安易にするわけがないのはここまで聞いたら分かる。これはコーネリアスのアルバムだ。
静けさと呼ばれるものは一見すると穏やかそうである。
ただ、嵐の前の静けさなんて言葉があるくらいでより次に来るもののインパクトを増幅させるのだ。「クラッシュ」と言っている部分、凶悪な音があるわけではない。たくさんのドラムやハモリの音を重ねることでどんなに歪ませるよりも旭日昇天な勢いで飛び込んでくる。
5. COUNT FIVE OR SIX
CORNELIUS - "Count Five or Six" - Yo Gabba Gabba!
”Clash”では静けさでの破壊衝動と言ったが、この曲では反対に激しさを用いた破壊衝動を表現しているようだ。
ハードロックのギターのような歪みにゴリゴリと低音の出ているベースに手数の多いドラム。それも6拍子で刻んでいく。
そこも見事な裏切りというか、斜めであり面白い。
6. MONKEY
サンプリングを多用している一曲。矢継ぎ早に音の形が変わっていく。ドラムンベースのビート感があるのにも拘らず面白い音を使う。
そのアンバランス感、浮遊感がそのまま良さへと変換されている。
7. STAR FRUITS SURF RIDER
コードが2つしかないシンプルな曲である。ゆったりと進んでいく。
サビに来るとドラムンベースのように倍ほどの量のドラムが鳴るのだ。歌声はさらりと綺麗な声でやっているから面白い。
ちなみに青葉市子がカバーしているこの曲もいいので張っておく。
STAR FRUITS SURF RIDER 青葉市子と妖精たち
8. CHAPTER 8 〜Seashore and Horizon〜
2曲を一曲にしているようである。ただ系統は似ている。海辺と水平線のように地続きであるのだ。
地が続いているその先にある景色を音楽で少し覗かしてくれる。
9. FREE FALL
リフもののような印象的なギターから始まる。そこにリバーヴがうまく加わってくる。リフだけ見るとハードロックなのだがリバーヴはインディーロックの要素になっている。
クロスオーバーしたサウンドである。ある種クロスオーバーしていくのがこのアルバムのテーマにあるのだから当たり前ではあるのだが。
10. 2010
メロディーが移り変わっていく感覚。そして同時に複数の旋律が平行的に流れていく。それをつなぐドラムンベースみを感じるリズム。
これだけ見るとくどいと思うがそこにいじらしさというか、斜めさがある。クロスオーバーするだけでなくそこに自身の解釈、要素が組み合わさってこの世代の空気を吸えるのだ。
11. GOD ONLY KNOWS
始まりは風とうっすらと後ろにあるベルっぽいキラキラした音。アンビエントかと思いきや徐々にギターのストロークにボーカルが組み合わさる。
サビになるとドカンと大きなボリュームになる。一種の形式美。様々な様相を含めてポップスにしていくのだ。
12. THANK YOU FOR THE MUSIC
この曲がある意味で最もファンタズマを象徴している。
始まりはカントリーの放牧さを得る。後ろのコーラスは「THANK YOU FOR THE MUSIC」。そう歌っている。今までの音楽に対しての感謝の気持ちをシンプルに表している。
わけではない。そのまま終わるわけがない。
かと思ったら是までのアルバム「FANTASMA」の一部分をサンプリングしていく。亡霊のように零コンマ数秒流れて又次に代わる。
Fantasmaとはイタリア語で亡霊を意味する。
ファンタズマのテーマとして既存の曲をクロスオーバーしてそこに斜めさを加えていくと考えている。言うならばファンタズマは小山田自身の音楽の歴史、サンプリングとも考えられる。
そこに対して感謝しているのだ。そして最後には「アディオス」と言う。
新たなものの創造にはまず既存のものを消化しなければならない。
13. FANTASMA
声のみのトラック。一呼吸して最後となる。
息を吸うにはまず息を吐くように、是までのジャンルとの決別の意に感じられる。
2020年に1997年のアルバムを考えてみた。面白い。今でも聞く価値が12分にあるアルバムだ。
そして一応コーネリアスのアルバム全曲感想がここで終わる。1つ1つのアルバムにコンセプトがはっきりとある。そしてそこに向かうストイックさは全く変わっていない。是非聞くべきアーティストである。