吉田一郎のソロプロジェクト名義である”吉田一郎不可触世界”が5年ぶりのアルバム”えぴにし”をリリースした。(吉田一郎については下に)
そこで今回は彼にとっての2stアルバムの感想を述べていきたい。
丸々とした鳴り
プレーヤーとして、つまり彼の場合ベースの実力を疑うよりは当然ない。
ZAZEN BOYS Himitsu Girl’s Top Secret 3/17 Bass Magazine Presents The Power of Low-End
ゴリゴリと歪みがかったベース。バキバキとしている。そうなるとアーティストとしてどうなってしまうか。一般的には自分の楽器の色が強く出てしまうものだがこれは違う。吉田一郎不可触世界はベーシストではない。アーティストなのだ。
前作と比べてよりシンセなどのデジタルな音色が目立つようになっている。そして今流行っているような音色でなく、ある意味で昔の音像で曲が構成されている。
さらに前作より歌詞の語感が丸々しいというべきなのか、タイトルにもなっているからか、ひらがなのような曲線さを感じる。ベースの音からはかけ離れている。歌声ともマッチして刺々していないから浮いていない。彼の風貌も相まっているのかまでは分からない。
では、より濃度が濃くなっている気がする二枚目の全曲感想を書きたい。
アルバム全曲感想
01. るーいん
ハイハットの細かいフレーズと無機質なバスドラ。サンプラーで打ち込んでいるであろう人の香りがしないビートに柔らかな声。歌にはハモリがずっと入っている。どちら吉田一郎の声だが近い音域だからこその良さがある。最後のディレイのフィードバックが大きくなっていくところがこのアルバムの始まりを想起させる。
02. えぴにし
吉田一郎不可触世界 - えぴせし / Yoshda Ichiro Untouchable World - EPITHESI
この曲は前々から公開されていたタイトル。後ろのシンセのシーケンサーが何とも安っぽいというのかひと世代前の雰囲気がある。確実にあえてこの音をチョイスしているのが憎い。さらにバスドラの音が馴染む音域をしているのが気持ちいい。そのためにベースラインや歌との協調性がばっちりでいい。その結果全体として一つのフックができて耳にいい曲になっている。
03. ゼリーの雨で眠れない
個人的にこの曲から次の曲の流れが最高に好きである。初めのAメロと呼んでいいのか分からないがその部分のズレがとても面白い。まずドラムのバスドラとスネアが一般的なタイミングからずらされている。また、コードを鳴らすシンセははっきりと音の有無を区別しているためにコードとリズムの二要素を音楽に追加している。その上に吉田氏の声。メロディーがあるのだがラップのようにも聞こえる。その中間にある。その部分がタイトであるためにその後のヴォーカルにコーラスをかけて歌う所の甘さが引き立つ。ビブラートの聞いた絶妙に音程があっているかいないか分からないシンセもいい。
04. B面のまぼろば
コンガが印象深い。そしてボーカルをぶつ切りにしていくかと思ったらバスドラの何連か分からないほどなっている。リズムの部分が渋滞しているのだが全くしていない。むしろそれが楽しい感じである。
それにしてもるーいん、えぴにし、まぼろば。面白い並びである。柔らかな印象を受けるのは曲の雰囲気と共に歌詞にもその要因があるのだろう。
05. phoenixboy
いままでの流れと少し変わる。中盤から雰囲気が変わっていくのだがその川上である。やはりドラムがのっぺりしている。が曲全体でみると安っぽいだとかそういう感覚を受けないのはひとえに声の柔らかさに要因の一つがあるだろう。そのため分離されているのだがそれぞれが支えあっている。
06. 恐怖の地縛霊
可愛らしいポコポコとしたリズム音にローファイなシンセ。ミニマムで緩い。途中ではにかみながら歌っている部分があるくらいだ。DIYが前面に出ている。ただシタールのようなエスニックな音であったり、わらべ歌かのような歌詞。雑多なもので埋め尽くされているため、ごちゃごちゃとしていて一定の余地が面白い。
07. BPM108で桶は蝶になる
ベースシンセというのか分からないがその部分が主となっていて、そのフレーズはそんなに変化はしないが他の音が変わっていくためにある種の推進力が生まれている。声にかけている微妙なエフェクトがまとまりをもっている。BPM108は果たしてテンポの話なのか。私はそうは思わない。
08. UmiToKoe
シンプルなビートにシンセと歌。デジタル音なのだがアコースティックな感じがする。肉体的とも言える。声をしっかりと聴きたい。そんな一曲だ。
09. 荼毘
”だび”と読む。火葬の意があるそうだ。もの悲しげな一曲である。マイナーであるとかそうことじゃなく、裏でなっているリヴァーヴかかったものが夕暮れを想起させる。盛り上がるのではなく曲が進むごとに盛り下がっていく。日が落ちるようだ。
10. 僕と悪手
最後の曲。先ほどの9曲からの陸続きで進む。僕と悪手、バツが悪い感じが出ている。サビの歌のメロディの上りかたが一本調子になっていて独特の節ができている。
序盤の2,3,4曲の流れががとても良い。あまりアーティストを他人で例えるのは好きではないがサンダーキャットのように様々なアーティストとコラボするようになっていく気がする。その時が楽しみである。