新しいアルバムや曲が出るということは無条件で我々リスナーにとってはうれしいことである。
だが今回自分は少し不安に思っていた。このPeople In The Boxというバンドの前作のアルバム"kodomo rengou"が傑作であったからだ。
そこで聞いてみた感想を全曲で行っていきたいと思う。
全体的な感想
第一印象として凄くスムーズに時間が流れていったと思った。そして音の数に真摯であるとも思った。なぜなら今までのPeople In The Boxの楽曲には毒が多く、とてもフックのあるものになっていた。
しかし今回のアルバムすべてを通して引っかかることのなく時が流れていった。言うならば毒を隠し入れるといったことになっている。またこれまで以上にピアノなどを利用している楽曲が多くなっている。それに総じてギターの割合が少なくなっているのだが、そこに対してのマイナスなイメージはない。
たぶん、今まではギターを使うということで曲を構成していったという感じがあるが今は曲を構成するためにギターを一部分使うという方法を取っている。より曲に対してのアクセスの仕方が多くなっているからこその表現を存分に感じられた。
何より楽曲のタイトルが秀逸であるというところに対して疑いようはない。
また、今回はこのアルバムのリリースのタイミングであったり方法が面白いものになっている。まずCD自体はライブ限定で発売する。ライブツアーが終了したらHPでも通販販売を売るという。
つまり一般には流通させないということである。また、ストリーミング限定で先行的に配信を行う。そしてこの発表は配信の2日前に行った。
自分自身とてもミニマムな方法であると思った。この方法ならば宣伝などもあまり必要がない(一般的なタワーレコードなどの店舗に並べる必要がないため)。また現代の音楽の売り方らしいとも思った。
そして何よりおもしろいのは前々のライブツアーは実は新譜リリースツアーであった、いうところだ。こうすることで発表前はただのツアーとして、そして発表後はアルバムリリースツアーとして1度で2回の動機付けを行うことができるからだ。
では、一曲ごとの感想を述べたい。
1. 装置
讃美歌のような晴れやかさに奥の方にあるヘビィさが心地よい。一曲目ということでどのような感じの曲が来るか楽しみだったが、重厚感がある。
曲の最後の方のギターの音がただ綺麗では終わらせないといういい捻くれを感じる。
2. いきている
”生きている”でなく、”いきている”。タイトルからも分かるが丸さを感じる一曲になっている。ただ、それは正確な真円ではなく、歪さを帯びている丸になっている。
この曲で特にベースが特に心地よい。低音のいいところを抑えつつ、リズムにいいアクセントを加えまさにベースとしての最高の形といえる。
3. 風景を一瞬で変える方法
不穏さを演出されている。そしてタイトル通り風景が一瞬で入れ替わる。初めの方は3拍子と4拍子のフレーズがどんどん変わる。そしてギターとドラムのタムの面白いフレーズがあると思うと次はピアノの典麗なところが出てくる。どんどん変わっていく。
ただ我々はそこに迷子になることはない。不穏さという指針でまとまっているからだ。
4. 忘れる音楽
とてもワールドミュージックのような感じがでている。初めのにカントリーのようなギターがあると思うと中華らしいメロディーが出てきたり、もちろん骨格は日本のリズムぽくなっておりそれをスムーズにまとめている。
それを昇華させさらに違う音楽をやろうとしていることがこの5分で分かる。
5. ミネルヴァ
この曲はとても疾走感がある。それに加えて、所謂aメロ→bメロ→サビという一般的な配置の仕方という疑いのないものをきっかりその意味を吟味して理由を付けている、と思える曲になっている。
またベースが少しワウがかかっていたり、始まりの深いコーラスがかかっているビートがあるためにより疾走感に磨きがかかる。影が濃いとより光が浮かび上がることと同じである。
6. 2121
全曲のミネルヴァの後の為によりゆったりしている。またこの曲はより歌詞が語感的にすんなり入ってくる。
「21世紀の音楽はね」というフレーズが特にとても耳に残る。主語をより強調し繰り返すことにそこにリズムが生まれ、また聞き手にも注意を引かせることに直結している。
7. 懐胎した犬のブルース
おそらくこの曲がこのアルバムのリードトラック的と言える。"的"と言ったのは本人達にとっては全て通して聞くことに意味があるからである。
どんどん出てくるメロディーが変わっていって、もしくはメロディーとは言えない様な音が出てくる。
それらが美しさのピースの一部分となっているのだ。どれか一つではダメだがどれか一つがなくても物足りない。その絶妙なところがよい。
木琴のような音のアウトロと鼓動のようなバスドラとタムとハイハット。音の息の根が聞こえる。
8. まなざし
最後の曲になる。と言っても実質的な最後の曲は前の懐胎した犬のブルースであり、この曲はアウトロ的な意味合いが強いと感じる。
シャカシャカしたバッキングギターと他の音と馴染むベース。タイトなドラムに後ろに聞こえるピアノに歌声。基本的にはこれらなのだがミニマムだからこそ見えるPeople In The Boxの骨格が生々しか伝わってくるのだ。
より聞き減りしない音楽となっている。分かりやすく目立つ音やどんどん変調したり変拍子を入れるともちろんインパクトは出るが聞き手としては疲れてしまいしがちである。
彼らはそれこそ変拍子や変調などを多用してダイナミックな楽曲を売りとしていた。
ただ彼らにとってそこはゴールではない。曲を聞いてもらい伝える、というミニマムかつ究極に近づく為のアプローチをしているということがこのアルバムを聞くととても伝わってくるのだ。
是非Peopleを最近は聞いてないという方や、初めて聞くという方に届いて欲しい。そこには最小限の音楽がある。